2004年08月07日

競馬場の中心でバカヤロウとさけぶ - 第1章 その1 -

ふと気がつくと南武線に乗っていた。いつものことだ。

東京競馬場では、きょう競馬の祭典・日本ダービーが行われた。

レースは順当な結果で多くの人が的中馬券を手にしたんだろう。
電車の中では馬券を取ったであろう人たちが、自分の予想に酔い、熱く薀蓄を語っている。
一方では馬券を外して今日のレースのことをあれこれ愚痴っぽく話している人たち、酔ってクダを巻いている人、ただただ競馬新聞に見入っている人たち。

でもそれはその日が日本ダービーでなくても同じ光景だった。
そしてもうひとつ同じなのはそんな光景を眺めている隆志自身のこと。
周りの声は聞こえていてもどこか別世界から聞こえるようで、しかも目に映っている景色はモノクロの世界。
そう、子供の頃に見ていた白黒テレビの世界だ。

「次は登戸、登戸です。小田急線はお乗り換えです。」
無味乾燥したアナウンスが車内に流れている。

登戸駅につくと、みんなは我先にと、弾き出されるように電車から降りていく。

隆志は人ごみを避け、一番最後に降りて、しばらくホームにたたずんでいた。
人がまばらになるのを待って改札へ向かう。

改札を出ると、ようやく隆志に「色のある世界」と「現実の声の世界」が戻ってくるのだ。
そんな不思議な感覚がこのところずっと続いていた。

「いったい、いつからこんなふうになってしまったんだろう。」
隆志はぼんやりと考えていた。

あの時は確か、見るもの全てが輝いていた。そして聞くもの全てが
澄んだ音の世界だった。
でも今の隆志からはそんな世界は失われていた。
「あの日がなければ。」

そんな想いも、いつものことだった。
(続く)
posted by Pochi at 22:09| 東京 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | Pochiの競馬エッセイ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする